2022 年 20 巻 p. 18-27
マッチングアプリは,恋愛・性的な出会いのためだけでなく,関係的な可能性のワクワクするようなバーチャル世界と中国社会の異性愛規範・家父長制を反映した権力ダイナミクスの場への入り口でもある。本稿では,マッチングアプリ文化のジェンダー/クィア・ポリティクスを捉えるための理論的概念として「ネットワーク化された性的公衆」というものについて説明する。特にその5つの特徴のうち2つを取り上げる。第一に,マッチングアプリが抵抗と支配の場となっていることである。いかにして異性愛女性とクィア・コミュニティがマッチングアプリの様々なアフォーダンスを活用し,家父長制と異性愛規範に抵抗しているのか,またクィア・コミュニティが自らの領土を再要求してもいるのかを述べる。第二に,マッチングアプリの利用者がアプリに付与する意味というものが,心理的動機に還元し得ないことである。具体例を示しながら,セックスを求める行為が性別や性的指向を異にする様々なアプリ利用者にとって異なる意味を帯びている様子を説明する。「ネットワーク化された性的公衆」の概念を説明し,新たな通信技術に関するインターセクショナルでクィアかつフェミニズム的な研究の今後の行方について道筋を示したい。