抄録
フランスの家庭雇用(l' emploi à domicile)の起源はブルジョワジー世帯の家事使用人にあるが,戦前,戦後と家事使用人をめぐる全国労働協約の制定に向けた労使の運動が積み重ねられ,その近代化が進められてきた。そして,1990年代以降,個人家庭が家事労働者を直接雇用する「非営利」,「非市場」のセクターとして家庭雇用が徐々に確立された。その規模は,使用者団体FEPEM (個人家庭雇用主連盟)によれば,2020年で雇用主が330万人,被用者が130万人,利用世帯は全国世帯の11.4%を占める。
本稿は,家庭雇用モデルが創出される過程と現下の課題を,使用者側のFEPEMの活動とエージェンシーを中心に検討することを目的とする。データとしては労働協約のほか,FEPEM結成70周年で発掘・収集された資料や現地調査で得た知見を用いる。
考察が明らかにするように,家庭雇用の「非営利」性は個人家庭雇用主を他産業の雇用主と区別する「特別」な性質を指すが,他方でFEPEMは他の雇用主と「同等」に被用者の労働者としての諸権利を保障すべく,国家の支援を求めてきた。この「特別」かつ「同等」という逆説的ともいえる自己規定はFEPEMの重要な特徴である。
他方,「非市場」への指向は,政府による2005年以降の対人サービス産業振興と対人サービス企業台頭への応答の中で生まれている。本稿は最新の2021年協約を取り上げ,いかなる意味で家庭雇用が家事・ケアサービスの市場化に対するオルタナティブとして構想されているかを明らかにする。