日本医真菌学会雑誌
Online ISSN : 2434-5237
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症例報告
ベトナム人HIV陽性者から分離されたTalaromyces marneffeiによるマルネッフェイ型ペニシリウム症の1例
下坂 馨歩浅香 敏之今村 淳治横幕 能行片山 雅夫川崎 朋範下坂 寿希亀井 克彦矢田 啓二駒野 淳
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2019 年 60 巻 1 号 p. 15-20

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抄録

マルネッフェイ型ペニシリウム症は,東南アジアを中心に分布する真菌Talaromyces marneffei を原因とし,免疫機能が低下した易感染性宿主に発症することが多い.今回,われわれはHuman Immunodeficiency Virus(HIV)感染を背景とした輸入真菌症として本症を経験した.症例は20歳代ベトナム国籍の男性で,発熱・腹痛・皮疹にて近医を受診しHIVスクリーニング検査で陽性と判明した.さらに吐血・下血を認めたため当院へ紹介入院となった.来院時の上部消化管内視鏡検査で食道カンジダ症,出血性胃炎を認めた.血液培養が好気ボトルにて約48時間後に陽性となり,鏡検にて糸状菌を確認した.クロムアガーカンジダ培地にて28℃で3日間サブカルチャーしたところ,深紅色素の拡散を伴うアスペルギルス様の比較的大きな灰白色のコロニーを認めた.免疫血清学的検査でβ-D-グルカンが高値であったため真菌症を疑いアムホテリシンBリポソーム製剤(L-AMB)を2週間投与,その後イトラコナゾール(ITCZ)に変更し軽快した.退院後,β-tubulin遺伝子の塩基配列による検査でT. marneffei と同定された.本症例はHIV感染により免疫力の低下が進行,全身性播種性マルネッフェイ型ペニシリウム症と考えられた.今後は海外交流の増加に伴い輸入真菌症に遭遇する可能性が高くなる.まれな輸入感染症を想定した診療・検査体制および院内感染制御対策が必要と考える.

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© 2019 一般社団法人日本医真菌学会
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