抄録
網膜上の錐体細胞の分配を考慮すると,人間の視野内の解像度は一定ではありえない.しかしながら,解像度分布の詳細はまだ明確にされておらず,脳内の仮想スクリーン上にどのような画像が得られているかは不明瞭なままである.本研究は,脳内の仮想スクリーン上で形成される画像を明確にしようとするものであり,この研究から,劣化を感じさせない画像の最低セットを明らかにすることにつながるものである.まず視野内の解像度分布の測定実験として,スクリーンに投影されたパターンの配列の中から目標パターンを探索するタスクを与えたときの視線の動きを記録した.解像度分布はこれらの視線の計測結果を使用して得た.また彩度に関する視野内の感度分布を測定する実験として,周辺視野領域において彩度を低下させた画像を見たときの主観評価を行なった.被験者には,画像の彩度低下に関する印象を5段階で答えさせた.彩度の感度分布および解像度分布の測定結果は,網膜上の錐体細胞の分布と類似した曲線を示した.測定により得られた分布曲線に従って,周辺部の解像度,彩度のいずれかまたは両方を連続的に低下させた風景画像に対して,画像中心に視点を固定した状態において,“元画像との差が気にならない”レベルの主観評価結果を確認した.