エレクトロクロミズムとは,印加電圧下において生じる可逆的な酸化還元反応を利用し,材料の色調や透過・反射特性などの光学応答を制御する材料・現象である.一方,構造色は,光の干渉あるいは回折効果に基づき,顔料を用いずに鮮明で角度依存性を有する光反射色を発現することが知られている.本研究では,エレクトロクロミック溶液と,規則配列した粒子からなる構造色を示すオパール構造電極を融合することにより,反射光を動的かつ可逆的に制御可能な新規ハイブリッド光反射デバイスを作製した.さらに,電極表面に修飾されたオパール構造の粒子膜が,エレクトロクロミック反応の進行や光学特性の変化に与える影響について詳細に評価した.
ポテンシャル論的エネルギー最小化の枠組みに基づくブルーノイズマスク生成において,エネルギー核として対数核やその近似核を用いることでマスクの一様性を向上できることを示す.また,カーネル半径を任意の大きさに設定可能な高速マスク生成法を実装する.エネルギーはball-discrepancyや粒状性評価尺度の一形式との等価性も成り立ち,一様性を数理的に評価するための有効な尺度であることを確認する.
近年のインクジェットプリンタにはインクの乾燥や成分沈降防止などを目的として,インクを常時循環しながらインクジェットヘッド(以下,ヘッド)へ供給するインク循環供給システムを搭載した製品が増加している.こうしたインク循環供給装置では一般に,必要な循環流量を保ちつつ,ヘッド面の圧力を一定に保つ流量・圧力制御の搭載が必要となるが,高精度な制御設計を実現するには対象システムの特性把握が重要である.本稿では制御設計において重要な特性となる,インク循環供給システムの周波数特性計測手法について検討する.対象とするインク循環供給システムは,複数のポンプを用いて複数位置の圧力を制御する多入力多出力系となっており,干渉系も存在する.また制御を切るとシステムとして成立しないという制約がある.こうしたシステム制約を考慮した周波数特性計測手法を提案,検証する.
偽造品の蔓延は大きな経済被害をもたらし,国際的な問題に発展している.著者らは透明導電酸化物(Transparent Conducting Oxides, TCO)を利用して,可視光を透過し,近赤外光を吸収する不可視インクの作製を検討している.TCOはワイドバンドギャップエネルギーによる可視光透過性と,局在表面プラズモン共鳴による近赤外光吸収特性を持つ.この材料を主材料とした分散液を作製することで,人間には不可視で,近赤外で機械検知可能なインクを作製することができると考えられた.本研究では,TCOであるアンチモンドープ酸化スズ(Antimony-doped Tin Oxide, ATO),酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide, ITO)と酸化セシウムタングステン(Cesium Tungsten Oxide, CTO)分散液を使用して不可視インクの作製を行い,最適な材料の選定を行った.作製した不可視インクはインクジェットに適応可能となり,TCOの微粒化と濃度をコントロールすることで,可視光下における視認性と近赤外光下における機械検知について制御可能となった.
今我々が思っている「あたりまえ」は,新しい原理や知見が見いだされ,大多数の人に受け入れられれば,新しい「あたりまえ」に置き換えられる.
従来廃棄プラスチックの物性がバージン品と比較して著しく低下している原因は,再生不可能な高分子鎖の切断を伴う化学劣化とされており,そのためにマテリアルリサイクル研究は全く停滞していた.それに対し我々は,物性低下の主原因が成形履歴の残存に基づく内部構造変異に由来する物理的現象である事,また十分に溶融緩和処理を行うことで,再生が可能であるという,「物理劣化・物理再生理論」を世界で初めて提唱した.またこの理論に基づいた,樹脂溜まり部を設置した押出機をデザインし,その機能の証明を行った.
この理論を新たな「あたりまえ」とすることで,高度で多回のプラスチック資源循環社会があたりまえに確立できる.
富士フイルムビジネスイノベーションの再生複合機事業は,使用済み商品を回収・選別・再製造し,新品の再生複合機として提供するサーキュラーエコノミー(circular economy)の一つの実践例である.当社は,1995年に掲げたリサイクル方針「限りなく『廃棄ゼロ』を目指し,資源の再活用を推進する」を掲げ,資源循環の促進に取り組んできた.2000年には,業界で初めて,回収した商品の「廃棄ゼロ(再資源化率99.5 %以上)」を日本国内において達成し,現在も継続している.近年のサーキュラーエコノミーへの関心の高まりを受け,再生複合機の製造販売台数を倍増(2018年度比)させた.「リユース・リサイクルを考慮した商品企画と設計」「回収量確保と適切な選別による費用抑制」「適正品質と高い部品リユース率の両立」「再生機の製造に最適な量産体制構築」に取り組むことで,資源循環と経済合理性の両立を実現し,事業化に成功している.
オレオケミカルとは,動植物由来の天然油脂から派生する様々な化学製品のことを指し,医薬から工業まで,多様な用途で使用されている.近年,化学工業においては,持続可能な社会つくりに向けた各種取り組みが実施されており,その中で,オレオケミカルはカーボンニュートラルを志向するバイオマス素材として改めて注目を集めている.
電子写真印刷分野においても,印刷工程の省エネルギー化や環境への影響に配慮した材料選定の重要性が高まっており,このような観点から,オレオケミカルの適応が進められている.本稿では,同分野において,トナーの構成材料として利用されている金属石鹸,エステルワックスを中心に,特色あるオレオケミカルについて解説する.
ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(per- and polyfluoroalkyl substances,PFAS)は,高い化学的・熱的安定性を有することから現代社会に不可欠な材料である一方,その難分解性により深刻な環境問題を引き起こしている.特に,ペルフルオロオクタンスルホン酸(perfluorooctanesulfonic acid, PFOS)やペルフルオロオクタン酸(perfluorooctanoic acid, PFOA)に代表される低分子PFASは,地下水や河川を汚染する主要因として,汚染水中での分解技術の確立が喫緊の課題である.一方,ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene, PTFE)に代表される高分子PFASは,環境中への拡散よりも,資源循環の難しさという別の問題を内包している.
本稿では,PFASの分解に加え,回収したフッ素の再利用に着目した近年の研究進展を概説する.光触媒反応,金属還元反応,メカノケミカル法などの手法を通じ,低分子および高分子PFASの双方に対応可能な分解・資源循環戦略が示されており,持続可能な有機フッ素化学に向けた新たな枠組みが形成されつつある.
発泡プラスチックの使用規制,リサイクル材含有規則,リユース可能な包装への規則など,環境対応を目的とする包装材への各国規定は年々増加し,普段の生活で紙製緩衝材を目にする機会は増加している.プリンター・複写機業界でも各社が紙製緩衝材の採用に取り組んでおり,様々なユニークな緩衝材が開発されている.しかし紙製緩衝材は吸湿による物性劣化や形状復元性の低さが課題であり,従来の発泡プラスチックに比べて性能面で不利と見なされることが多い.プリンター・複写機は精密ユニットを含む機器であるため,紙製包装の物性の不安定性が採用へのハードルになっているという声を聞くことも少なくない.
本報告では,紙製緩衝材がもつ課題に対し弊社が取り組んだ開発事例について紹介する.
昨今のPFAS(per- and poly-fluoroalkyl substances)規制問題に限らず,化学物質を取り扱う場合における健康面や安全面への配慮が年々厳しくなっている.デジタル画像に関連するトナーやインクジェットインクは化学物質の混合物で形成されており,いろいろな側面で規制を受ける機会が増えてきている.また,昨今ではSDGs(sustainable development goals)への対応力が企業として問われている時代にもなってきている.環境対応についてはその労力が単なる負荷とされているのが実態である.しかし,この環境対応を新たな技術開発として取り組み,付加価値の高い商品を提供する大きな要素へ転換すべきと考える.本稿では環境規制がどのように進んできているかを俯瞰し,これを大きな技術開発要素と考える方向性を議論していく.