日本画像学会誌
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Imaging Today
古墳時代に作られた黒漆甲冑における乾燥方法の調査
山本 尚三
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2022 年 61 巻 5 号 p. 522-528

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抄録

現在,日本の伝統工芸品とされる236品目には南部鉄瓶のように金属と漆を組み合わせたものが多く,それらの製品は我々の身近にも存在する.そこで金属と漆の組み合わせの歴史を調べると,今から遡ること1600年前の古墳時代において既に甲冑に黒漆が塗られていたことが分析結果1)から判っている.また,末永2)や小林3)は古墳時代の甲冑に塗られた漆は革紐で綴じあわせなどした後にほどこされたものであり,その乾燥方法は通常の漆と同じように常温乾燥法によったものである,としており定説の一つになっている.しかしながら,漆は焼付乾燥でなければ金属に密着しないものの,鹿革などの紐で革綴じ後に焼付乾燥した場合には逆に革紐が熱劣化するため,革綴の作業性と防食性とのトレードオフとなる.そこで,これらの真偽を見極めるために今回検討を行った.その結果,表面性能は焼付乾燥した方が圧倒的に高性能であり,その名残が甲冑の凹みにも垣間見えた.また,分光測色計を用い非破壊で黒漆甲冑部を測色した結果,焼付由来の特徴を持つ分光反射率のプロファイルも得られた.更に,漆塗工程と革綴工程を入れ替えることで革紐を熱劣化させずに焼付乾燥法を採用できる可能性があることも判った.これらのことから,革綴の作業性と防食性とのトレードオフを緩和するために従来と逆の部品成形段階で焼付漆技法を採用し,その後,革綴している可能性があるとの結言に至った.

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© 2022 一般社団法人 日本画像学会
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