国際生命情報科学会誌
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シンポジウム
自然治癒力に対する精神科医によるアドラー心理学からの一考察
田中 禎
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2019 年 37 巻 2 号 p. 175-

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抄録

アドラー心理学は、臨床現場における「人間が健康的に生きていくこと」「他者を援助し、協力的に暮らしていくこと」などをテーマに、理論的に「全体論」「目的論」「仮想論」「社会統合論」「個人の主体性」などの基本前提から構築されている臨床心理学である。機械論的な人間解釈や動物実験の延長で人間を理解しようとする動きとは一線を画し、人間を人間として、機械でも動物でもない人間として、固有の精神を持った人間としてみようとする立場をとる。その理論は、仮説検証的な自然科学的理論ではなく、仮想のシステムに過ぎない。いわゆる真理の追究ではなく、ある一つの解釈の仕方に過ぎない。 人間が健康的に生きていくこと、特に人間が精神的に健康で生きるためには、他者との関係が良好でなければならず、他者との関係が良好であるためには、他者の関心に関心をもち、それにもとづいて他者に貢献しようと決心していなければならない。そのような他者への関心と貢献の感覚を「共同体感覚」と呼び、アドラー心理学の思想の根幹をなす。また、この思想があるため、アドラー心理学は科学そのものではない。 アドラー心理学の技法としては、「目標の一致」「解釈と推量」「課題の分離」「代替案の提示」「勇気づけ」「ライフスタイル診断」などがある。しかし、多くのアドラー派の治療者は、心理治療の技法は流派を超えた共有財産だと考えており、折衷的で、古典アドラー心理学に忠実にライフスタイル診断を行うこともあれば、アドラー心理学の理論と思想の文脈において、認知行動療法やナラティブ・セラピーやミルトン・エリクソンの系統のさまざまな治療を採用することも珍しくない。さらに近年、日本では、サイコドラマに古武術的技法を取り入れたボディ・ワークなども報告されている。 本シンポジウムでは、このようなアドラー心理学の文脈においてあらためて「自然治癒力」及び「その可能性について」考察してみたい。

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