明治大学社会科学研究所紀要
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ペン・セントラル鉄道の経営危機と短期資金調達(1969-1970年)
コマーシャル・ペーパー/ユーロダラー市場に着目して
須藤 功
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2024 年 62 巻 2 号 p. 126-139

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抄録

本稿では、経営危機に直面したペン・セントラル鉄道の短期資金の調達を跡付ける作業を行なった。ペン・セントラル鉄道は、経営統合の当初から鉄道規制当局(ICC)の認可と取引銀行のバックアップ信用をえた上で、ゴールドマン・サックスを介してコマーシャル・ペーパー(無担保単名手形)の発行による資金調達を積極的に展開した。コマーシャル・ペーパーは、銀行借り入れ以下の低い金利(利回り)で発行できた。自動車会社の金融子会社などの発行で330億ドル強に拡大し、ペン・セントラル鉄道のコマーシャル・ペーパー発行は残高全体の5%を占めるまでになった。そして同社の債務不履行によってコマーシャル・ペーパーの更新不能が連鎖的に波及し、過度の銀行信用需要を誘発する流動性危機へと発展する恐怖が襲った。さらに、ペン・セントラル鉄道は財務危機が深まる中で、最後の頼みの綱として高金利のユーロダラーの借り入れに向かった。ペン・セントラル鉄道の破綻は、連邦預金保険の適用外であるユーロ資金の貸し手、500億ドル規模に成長したユーロダラー市場に衝撃を与えた 。ペン・セントラル鉄道の経営破綻に向かう過程で、連邦準備制度は譲渡性預金証書の上限金利の引き上げやユーロダラー預金に対する必要準備規制を導入して、ユーロダラー金利の急落、米銀行のユーロダラー取入れの急減など、ユーロダラー市場の「危機」を誘発することになった。コマーシャル・ペーパー市場やユーロダラー市場の危機を目前にした、ニクソン政権によるペン・セントラル鉄道救済計画や連邦準備政策の検討については、別稿を用意している。

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© 2024 明治大学社会科学研究所および本論文著者
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