理論と動態
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Print ISSN : 2185-4432
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ケアの私事化プロセスの再考
公的支援から拒否されたシングルマザーのエイジェンシーに着目して
平安名 萌恵
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2023 年 16 巻 p. 68-85

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抄録

 シングルマザーが公的支援につながらない理由は、彼女たちが自立を望むがゆえに子どもに対するケアと就労を一身に背負い、ケアを私事化するためとされている。しかし、自立的主体に着目した研究では、ケアを主体的に引き受けていないとして、それゆえに公的支援においてジェンダー規範から「逸脱」しているとみなされる女性たちの存在が見落とされている点で課題がある。そこで本稿は、支援を拒否された経験をもつ4人のシングルマザーの生活史を対象として、一貫した能動性・受動性を前提にしない行為体としてのエイジェンシーの観点から分析する。公的支援か ら拒否されるという経験をめぐる彼女らの語りを、それ以前に形づくられた親族や夫・交際相手との関係性を踏まえて考察することで、私的領域においてケア関係を完結させようとする彼女らの規範がどのように形成されたのか、そのプロセスを詳細に明らかにする。分析の結果、これまでのケアに対する態度が考慮されることなく公的支援から拒否される経験は、彼女たちの支援への信頼度を下げ、再び暴力下でケア遂行する生活に引き戻し、ケアを私事化し続けることを意味していた。また、調査対象者のなかには、再婚相手など、法的な家族こそ自身に安定的なケアを与えてくれる存在であると語る者もいた。誰からも助けられずに暴力下に置かれるなかで、彼女たちはその場で求められるケア役割を従順に、ときに戦略的に引き受けるようになる

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