理論と動態
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<下層と運動>
社会的排除に抗する社会運動のオルタナティブ性
──日仏の貧困の当事者運動からの考察──
稲葉 奈々子
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2011 年 4 巻 p. 8-23

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抄録

 本稿は日本とフランスの〈持たざる者の運動〉についての実証的な比較研究である。日本とフランスにおいて1990年代半ば以降に活性化した社会的排除をめぐる運動は、ともに失業者やホームレスの当事者を担い手とし、新自由主義に抗する反グローバリズム運動の系譜に位置づけられ、直接行動や直接民主主義を手段とするなど多くの共通点を有する。その一方で、フランスの運動はメインストリーム社会への統合を目指し、日本の運動はミドルクラス的な規範やライフスタイルに対抗する価値観を提示する運動として展開しており、オルタナティブ性においては両者は大きく異なる。この相違は、社会保障を通じてメインストリーム社会への統合可能性が開かれている度合いや、社会運動に対する弾圧の程度によって規定される。さらに重要なのは、当事者がみずからを権利行使の主体として自己規定するか否かである。フランスの〈持たざる者の運動〉は、移民一世がおもな担い手であり、新自由主義的な自己責任論を内面化しておらず、社会的権利の主体としての自己規定を妨げるものがない。他方、日本では貧困を自己責任として内面化しているがゆえに、当然の権利とい う発想がない。このことがフランスの運動よりも日本の運動のほうを、よりオルタナティブ志向の運動として出現させる要因になっている。

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