2015 年 8 巻 p. 110-127
本稿は、フィリピン・マニラで昨今増加するスクオッターの強制撤去の事例から、マニラの都市底辺層の階層分化に関する知見を提示するものである。従来、マニラのスクオッター研究では、その固有の労働・生活形態が描出されてきた。それらの研究はスクオッターに関する理解を深めるものであったが、スクオッターの内部構成については一枚岩に把握されてきたため、その内的動態は等閑視されてきた。しかしながら、強制撤去に代表される昨今のスクオッターをめぐる動向は、スクオッター内部の階層分化を激化させており、その動態を踏まえた研究の刷新が求められている。本稿はケソン市サンロケの参与観察から、強制撤去がいかにスクオッターの階層分化を強め、なかでもその底辺に位置する人びとの労働と生活に悲惨を強いるのかを論ずる。強制撤去はスクオッター内の貧しき人びとを都市外へと追放し、かれらの慣習行動の総体を破壊する帰結を示す。