抄録
本研究は、2015年4月に地震の被害を受けたネパールを事例に、脆弱性を生み出す要因としての社会的排除に注目し、特にジェンダー平等と社会的包摂の視点を取り入れた支援について検討することを目的とする。ネパールでは地震発生以前の段階ですでに社会的排除が問題として認識され、ジェンダー平等と社会的包摂に関する取り組みも始まっていたが、農村部でそれを実践するための機構は不十分であった。発災後、クラスター・アプローチが採用され、ジェンダーや社会的包摂の視点を取り入れる試みがなされたが、脆弱層への配慮は不足していた。背景として、住民登録制度が確立されていないこと、補償制度が個人ではなく家族/世帯単位であることなどが考えられる。「より良い復興」とは、工学的な意味での強靭さを備えた復興として理解されがちだが、社会経済的・文化的な側面においてより良い状態を生み出すためには人権の視点も不可欠である。ネパールにすでにある政策文書をツールとし、人権基盤型アプローチを取り入れることで「ひとりひとり」が尊重される社会へと近づくのではないだろうか。