2017 年 17 巻 p. 23-30
本稿では阪神・淡路大震災と東日本大震災の2つの震災を経た日本における宗教とボランティア活動の関係について考察した。日本では、中世におけるキリスト教への弾圧の反動として仏教が、近代においては国民国家の成立の中で家系を基軸とする精神性の維持のために神道が、それぞれ社会システムに組み込まれた。さらに、信教の自由と政教分離原則が定められた憲法のもとでは、例えば「ボランティア元年」とも呼ばれた阪神・淡路大震災の救援・支援活動が象徴するように、宗教団体による信仰に基づいた社会活動よりも、ボランティアの現場におけるリーダーの宗教性が活動を牽引する傾向が見られた。 そこで、国際的には「宗教に基盤をおく組織(faith-based organization)」と呼ばれる形態の社会活動に対し、日本では「宗教と結びつきのある組織(faith-related organization)」という視座が適切という先行研究(白波瀬 2015)をもとに、ボランティア元年から20年を経た日本のボランティア活動に根差す宗教性を検討した。その際、大規模・広域・複合型の災害である東日本大震災のボランティアの研究から、宗教者とは必ずしも聖職者に限るわけではないとした議論(稲場 2011)から提示された「無自覚の宗教性」という視点を参考にした。その結果、アジア圏においては弱いとされたボランタリズムの存在や機能を確認するとともに、秩序的ではなく遊動的な活動の萌芽を捉えることができた。