抄録
中赤外波長領域は分子結合固有の吸収線が多数存在する領域であるため、この領域で連続的に波長を変えられるレーザーを利用すれば、赤外吸収分光による患部の診断や、病変部のみを選択的に切除できる安全な治療法など様々なバイオ・医療応用が考えられる。我々は中赤外波長可変レーザーを用いて動脈硬化治療、胆石破砕、歯科治療など様々な応用研究を行っている。中でも胆石は患者によって主成分が異なり、治療に最適な波長も患者毎に異なることから、内視鏡下で赤外吸収分光による診断と治療の両者を行うことができる新規システムを提案し、開発を進めている。全反射減衰法による吸収分光を行うためのプリズムを取り付けた光ファイバープローブを製作し、中赤外波長可変レーザーでコレステロール分子内のC-H変角振動による波長6.83μmの吸収ピークを検出することに成功した。また、コレステロールの吸収が強い波長6.83μm、および吸収係数が6.83μmと比べて約1/5となる波長6.03μmでヒト胆石(コレステロール石)の切削を行った結果、コレステロール分子内のC-H変角振動による吸収と一致する波長6.83μmのレーザーを用いることで、より低いパワー密度で胆石を切削できることを示した。