抄録
自動車運転などの持続的作業に従事する際の覚醒水準の減衰は,運動能力や判断能力を劣化させ安全性を低下させることから,その客観的かつ定量的な評価基準の確立が望まれている.従来研究によると,slow eye movement (SEM)の発生を検知することにより,覚醒水準の低下が判定可能であることが示されているが,SEMは主として入眠時に発生することから,覚醒水準の変動を評価するための指標としては不十分である.本研究では,画面中央に提示した十字視標を注視し続けるだけの,ごく単純な課題を課した際の眼球運動と瞳孔径変動を計測し,SEMが発生する数秒前の変化について解析した.その結果,SEMの直前には,マイクロサッカードの発生頻度が増大するとともに,瞳孔径が持続的に収縮することが示された.これらのことから,マイクロサッカード発生頻度と瞳孔径変動を同時に計測して分析することにより,覚醒水準変動の客観的評価が可能であることが示された.