抄録
注視中に不随意に生じる固視微動が視知覚に及ぼす影響についての報告が相次いでいる.固視微動中のドリフトやトレマが特定の空間周波数帯域の増強効果をもたらすことや,マイクロサッカードが小さなコントラスト差を強調する可能性などが示唆されているが,周辺視野を含む網膜全体の応答に対する固視微動の修飾については,十分な知見が得られていない.本研究では,固視微動が視知覚に及ぼす影響の解明を目的として,網膜神経節細胞の応答特性を再現する数理モデルを用い,錐体細胞の分布を考慮した周辺視野への拡張を施し,固視微動発生時の網膜像のシミュレーション解析を行った.その結果,ドリフトとトレマは高空間周波数入力,マイクロサッカードは低空間周波数入力に対して神経節細胞の膜電位に増強をもたらし,それがM型神経節細胞でより顕著であることが示された.また,固視微動によって網膜の応答に周期的な変動が生じることから,これらが網膜における同期発火の要因となる可能性が示唆された.