本研究では,視覚的注意などの高次脳機能を定量的に把握するために適した指標の確立を目的として,注意機構の支配を受ける固視微動の揺らぎが持つ確率的振る舞いを再現する数学モデルを構築した.固視微動の平均二乗変位量(MSD)の特性は,複数の外的要因が関与することを示唆するクロスオーバーの特徴を有することが知られている(Engbert & Kliegl. 2004).このことから,固視微動の制御システムが,ドリフトとマイクロサッカードによる注視位置補正により統制されることを仮定してモデル化を行った.シミュレーションの結果,固視微動の基本的なMSD特性は,フラクショナルブラウン運動と注視位置を維持するためのフィードバック制御により記述されることが示された.また,マイクロサッカードが短時間尺度におけるクロスオーバーの形成に寄与していることが示唆された.