私たち日本人の多くは,生活圏に蔓延する雑草とその景観に馴らされ,雑草の脅威を肌で感じることはありません.今回の報告は雑草に起因する広義の人身障害について,雑草ウオッチャーならびに雑草インストラクターからの情報を衛生害虫の定義になぞらえ‘ヒトの健康または生活環境を害する雑草類’の視点でまとめました.雑草が関わる公衆衛生学的問題として,1.雑草の構成成分によって発症するアレルギー性炎症,接触性皮膚炎,誤食中毒.2.雑草管理作業によって発生する多様な作業傷害.3.雑草が毀損させた造営・工作物機能によって起きる人身事故.4.雑草地が引き起こしている生活環境被害.5.ヒト感染症に係わる昆虫類・鳥類・哺乳類と雑草との相互関係,および病原菌の生態と雑草の役割,以上五つに類型化して事例を紹介しました.これらの雑草リスク情報から,日本における雑草害の現状と大きさ,そして,なぜ世界貿易機関の加盟国(WTO)が雑草を害虫や病害と同じpest(有害生物)として取り扱い(SPS協定)法規制を行っているかが分かります.地球環境の変動と変貌する雑草のリスクに対して私たちは,平常性バイアス(正しく恐れる)を持ち,‘清潔で健康な植生環境形成’を社会の目標に,科学に裏付けされた知識と多種多様な技術を駆使し対応していくことが求められています.