抄録
ヒトと係って生きる植物である雑草は,人為攪乱が引き起こす個体群全滅のリスクを巧妙に分散している.種子の散布による空間的リスク分散,種子の休眠・発芽による時間的リスク分散,表現型変異によるリスク分散,および他種との関係によるリスク分散である.種子散布には一次散布と二次散布があるが,雑草の繁茂を考えるうえで大事なのは意図的および非意図的な人為による二次散布である.種子休眠・発芽に関わる最近のトピックは遺伝子の解明である.種子休眠遺伝子として2006年にDOG1が同定され,種子発芽がABAとGAの遺伝子発現クロストークによって制御されることが明らかになりつつある.雑草個体群の表現型変異は,遺伝的変異と可塑的変異が合わさって生じる.表現型変異の幅が大きければ,生育する場の攪乱に対して,個体群として柔軟に対応できる.除草剤散布や機械除草のように,強度が大きくても,単純で,定期的な攪乱であれば,雑草は,個体群の保有する表現型変異によってそのリスクを分散させ得る.他種との関係によるリスク分散は,言及されることは少ないが,雑草に特徴的で重要な事象である.雑草が,ヒトという他種が創り出す環境において生存しているからである.その典型的事例として,タイヌビエが水田だけに生える秘密が解説される.