岩手医科大学歯学雑誌
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症例報告
ダウン症候群の歯周組織所見について-3例報告-
佐伯 厚夫佐藤 良雄熊谷 敦史砂山 康俊油井 孝雄上野 和之
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1985 年 10 巻 3 号 p. 217-223

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抄録

ダウン症候群は, 肉体的あるいは精神的障害に加えて, 歯の萌出障害や先天欠如, エナメル質形成不全など口腔領域の異常を伴うことが多く, かつ歯周疾患に罹患しやすいということから, 歯科領域ではしばしば取り上げられている。今回, 我々は3例のダウン症候群の歯科治療に従事する機会を得たので, その歯周組織所見を主体に検索した。

症例は21歳の女性, 20歳の女性, 18歳の男性の3例であり, いずれも重度のダウン症候群例である。出生時の母親の年齢は, 39歳, 33歳, 44歳と比較的高く, 従来の報告を裏づけている。家族歴では, 同胞, 親族に心身障害者がいることや, 母親の初潮が遅いこと, 症例自体も出生時, 難産であることが共通していた。

口腔所見についてみると, カリエスは少なく, 歯根面の微細構造でみられた石灰化亢進がカリエスに対する罹患を抑制しているようにも推測された。しかしながら, 歯石沈着が極めて強く, 歯群のほとんどが歯石の中に包埋されている所見もあり, カリエスに罹患しにくい状態にあったという環境による影響の方が大きく作用しているようにもみられた。歯周状態については, いずれも歯垢, 歯石など著明な局所刺激因子の存在の下に, 高度の炎症性病変が認められていた。歯肉の発赤腫脹はこれら局所刺激因子の量にほぼ一致していたが, 歯槽骨の吸収は必ずしも局所刺激因子とは一致していなかった。

今回, 観察された全体的な所見から, ダウン症候群における歯周疾患の成り立ちについて考えてみると, 肉体的な発育不全に伴う感染に対する抵抗力の低下も, 病変の進展という点では, 何らかの点で関与しているようであった。しかし, それ以上に歯口清掃の不全による歯垢, 歯石など局所刺激因子の存在や, 歯群の倭小化, 咬合不全など局所的要因の方が歯周疾患の進展に大きく関与しているように思われた。

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1985 岩手医科大学歯学会
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