1985 年 10 巻 3 号 p. 211-216
上顎中切歯が歯槽基底部に完全に嵌入脱臼した比較的まれな症例を経験したので, その処置, 歯髄組織の病理所見を報告した。症例は14歳の男子で, 転倒時に机の角に上顎前歯部を強打した。受傷後約20分で来院, 上顎左側中切歯が嵌入脱臼していたが, 歯槽骨骨折や鼻腔底への穿孔は認められなかったため, 直ちに患歯の整復固定を行った。術後4日目で歯髄失活が疑われたため抜髄と根管充墳を行った。摘出歯髄組織は歯冠部では歯髄細胞の変性, 歯根部では凝固壊死の所見を呈し, また, ところどころにグラム陽性の細菌様集塊が散見された。その後の治癒経過は良好で, 術後2か月で固定装置を除去した。9か月後の現在, 患部に著変は認められない。