2000 年 25 巻 3 号 p. 263-272
我々は1992年以来, 唇顎口蓋裂を有する乳児の手術前処置としての口蓋床に熱可塑性プラス チックを応用してきた。110名の様々な裂型を有する乳児にこの方法が適応された。口蓋床使用の平均的期間は生後1.5か月から 生後12.5か月までであった。授乳は, 重篤な全身疾患を有する場合を除き, 初診時の口蓋裂用の特殊な乳首や経鼻栄養管の使用から通常の乳首使用への移行がほとんどの症例で可能だった。また離乳も順調であった。歯槽部顎裂幅と口蓋部の裂幅は顕著に減少した。この効果は裂隙に面した歯槽部の先端と口蓋突起の発育自体によるもので, 機械的な拘縮によるものではない。ひとつの口蓋床を作るのにかかる時間は印象から装着まで含めて一時間以内である。2か月に一回の割合で歯槽部と口蓋の発育にあわせて新し い口蓋床が製作された。我々の方法は従来のものに比較して簡単であり, 技術的にも易しく, 経済的である。また口蓋床自体の違いとして, 吸水性がなく, 薄く, 半透明で, 一層だけであり, 発育誘導のための削合は不要で, 軟口蓋への延長部が小さい。以上より我々の手術前処置の方法は唇顎口蓋裂を有する乳児の状態を十分に改善できるものであると いう結論を得た。