1978 年 3 巻 2 号 p. 179-188
LundstrÖmDによつて提唱された歯槽基底論は,矯正治療の1手段として永久歯の抜去の必然性を定着させた。以来,今日では,不正咬合を改善するにあたって永久歯の抜去が広く取り入れられており2),なかでも,第1小臼歯が最も高い頻度で選択されている。3めしかしながら,症例によっては第1大臼歯の抜去される場合も稀ではない。それらは,歯冠巾径の大きさと,歯槽基底部の大きさに著しい差のあるdiscrepancyの過大な症例,あるいは,開咬傾向を示めす,ある種の骨格系の異常に起因する不正咬合の治療の場合に,ほとんど小臼歯と同じ比重で抜去される場合がある。このような例でぱ治療の進め方の上で種々の問題点をもつことが多い。とくに,永久歯咬合のすでに完成した症例では,第1大臼歯の抜去によって生ずる広範な歯の移動と,それに伴なう咬合の変化を制御してゆくことは,治療の展開を極めて困難 にする場合が多い。 ここに報告する2症例は,いずれも下顎第1 大臼歯を抜去して治療を行なった反対咬合の症例である。この2例をとおして第1大臼歯の抜去による治療の進め方と,その臨床上の意義に ついて考えてみたい。