1980 年 5 巻 1 号 p. 32-40
慢性下顎骨骨髄炎の治療には種々な方法があるが, 今回われわれは, Decorticationを施行し, 良好な結果が得られた症例を経験したので報告した。
症例は, 20歳男性で, 既往歴に16歳時, 右側脛骨骨髄炎がある。 現病歴は4年前に脛骨中央部の激痛と腫脹, 悪寒が発現するとともに, 右側頬部に疼痛と腫脹, 開口障害が出現し, 某病院外科に入院, 治療を受け症状は消退した。その後同様の症状の発現を繰り返し, そのたびに治療を受けていた。 今回約1ヵ月程前より, 右側下顎骨下縁に圧痛が生じ, やがて自発痛と開口障害が現われ, 腫脹も高度となった為に, 某病院内科にて抗生剤の投与を受けるも, 治癒遅く, 本学整形外科を受診したところ, 当科を紹介され来科した。 現症は体格中等度, 栄養状態良好であり, 体温は37.3℃であった。 口腔外所見は, 右耳介前下部から顎角部と頬部にいたるび慢性の腫脹がみられ, 同部位に圧痛がみられた。 顎下リンパ節は, 右は鳩卵大1ケ, 小豆大3ヶで圧痛が有り, 左は示指頭大1ケで圧痛はなかった。 口腔内所見は, 下顎枝前縁の肥厚と圧痛があり, 咬筋前縁にも圧痛を認めた。 はいずれも vital であった。 X線所見では, 右側下顎角部から骨体部に至る虫喰像様の骨吸収像と,
根尖部付近の骨硬化像を認めた。治療は
抜歯後, 抗生剤の投与と共に全麻下にて Decortication を施行した。 手術所見は, 骨露出時, 骨面には肥厚がみられ, 一部は肉芽組織でみたされていたため, その部分の骨皮質を一塊として剥離し除去した。 術後6ヵ月間は全身疲労時に腫脹などの症状の発現をみたが, 漸次軽減し, 現在経過は良好である。 脛骨における骨髄炎と顎骨の骨髄炎との関連については,
がvitalであり, 口腔内所見も乏しいことから, あるいは血行性の発症ではないかとも考えた。