1981 年 6 巻 1 号 p. 61-68
上顎悪性腫瘍摘出後の左側上顎半側欠損症例に対して磁石を応用した顎補綴を試み, その有用性について検討した。
患者は開ロ障害を伴っているため, 顎補綴物は栓塞部と義歯部とに分割し, その維持装置として直径3.6 mm, 高さ2.5mmの円柱形の希土類・コバルト磁石(SmCO5)を用いた。顎補綴物を装着し経過を観察した結果, 次の所見を得た。
1)顎補綴物の着脱が容易で, 発音障害は著明に改善された。
2)義歯部は通常の総義歯と同様の方法で製作できたため, 顎補綴物特有の形態による患者の心理的負担を軽減するのに役立った。
3)希土類・コバルト磁石は小型で吸引力が大きいため, 栓塞部と義歯部との維持装置として効果があった。しかし, 磁石の防錆対策にはまだ検討の余地があり, 生体に使用する場合には, その影響を極力少なくする方向で考えることが肝要である。