2012 年 6 巻 p. 17-25
伊豆沼・内沼の畔で生活し,現在も環境保全活動にかかわっている人々(マコモ軍団)からの聞き取りと既存の歴史的資料から,沼を利用した生活と自然保護について,地域住民の視点から整理した報告である.干拓農地をもつ地域住民にとって,伊豆沼・内沼での生活は水害と隣り合わせにあったが,その一方で沼の水産物を享受していた.しかし,1960年代からの愛鳥会による保護運動と,行政による伊豆沼・内沼の保護区の指定によって,渡り鳥の保護は強化され,漁業や狩猟による沼の利用や,農作物に危害を加える鳥の駆除に制限がかけられるようになった.これにより,地域住民の生業による伊豆沼・内沼とのかかわりは衰退を招いた.こうした視点から渡り鳥保護の経緯を見ていくことによって,沼の恵みの享受を渡り鳥に阻害されたという地域住民の葛藤を確認することができた.