抄録
本論文の目的は,ABC(活動基準原価計算)導入後のコストビヘイビアを分析することによって,ABC導入が組織構成員の行動にどのような影響を与えるかを推定することにある。具体的には,調査対象である株式会社飯田より得られた顧客別損益に関するアーカイバルデータを用い,ABC導入が顧客別コストビヘイビアにどのような構造変化をもたらすのかを検証する。分析の結果,分析期間を通じて下方硬直的であった顧客別コストビヘイビアは,ABCの普及時点を境にコストの下方硬直性が緩和されることを確認した。これは,下位組織にまでABCが十分に浸透した時期を明らかにした事前の予備的インタビュー内容と整合的な結果である。こうしたコストの下方硬直性の緩和は赤字顧客に顕著であり,売上の減少に応じたコスト調整が適切に行われるようになったことを示唆している。