抄録
本稿の目的は,組織再編の公表に先立った経営者の利益調整行動と,株価形成との関連性について実証的に分析することにある。株式を対価とする組織再編では,株式交換比率や合併比率を有利に決定するため,経営者は交渉過程において,株価を意識した利益捻出を行う動機を有する。そして,実際に経営者が利益捻出を行っているのであれば,その後の会計期間では利益の反転が生じることが予想される。そのような利益捻出と反転効果は,短期的または長期的な株価形成にマイナスの影響を及ぼすであろう。本稿では,組織再編企業の公表前における裁量的発生高と,公表後における短期および長期の異常リターンとの関連性について分析を行った。その結果,組織再編企業の経営者が基本合意事項の公表前期に利益捻出をはかること,そして利益捻出が公表後の会計期間に利益の反転をもたらし,長期的な株価形成にマイナスの影響を及ぼすことを示唆する証拠を得た。