会計プログレス
Online ISSN : 2435-9947
Print ISSN : 2189-6321
ISSN-L : 2189-6321
セグメント財務報告における経営者の裁量行動
上場企業の内部データに基づく検証
中野 貴之
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 2018 巻 19 号 p. 96-112

詳細
抄録

 本論文は,セグメント財務報告における経営者の裁量行動について実証した。企業の内部データにより擬似セグメントを作成し,外部報告用セグメントと突き合わせた。その結果,まずマネジメント・アプローチ(MA)導入前,日本企業の経営者は,現在価値が大きく非競争的な事業,ないしは,利益率が低く現在価値が小さい事業の業績をセグメント別に報告しない傾向が強いという,プロプライエタリー・コスト(PC)仮説およびエージェンシー・コスト(AC)仮説に整合する証拠を得た。次にMA導入後の状況について調べたところ,擬似セグメントが報告される割合が有意に上昇していることを確認した。ただし,すべての事業が平等に報告されるようになったわけではなく,セグメント報告に伴うPCないしはACが大きい事業については依然としてセグメント別に報告されない傾向が強く,当該傾向が緩和されたことを示唆する証拠はほとんど得られなかった。むしろ,MA導入後,当該傾向が促進されたことを示唆する証拠が一部見出された。本研究の貢献は,日本の上場企業の内部データおよび公表データを併用し,MA導入前におけるセグメントの区分に対する経営者の裁量行動,および,当該行動に対するMA導入の効果と課題について最初の証拠を提示した点にある。

著者関連情報
© 2018 日本会計研究学会
前の記事
feedback
Top