抄録
本稿の目的は,地方自治体におけるIT費用・資産が行政コストに与える影響について実証的に明らかにすることである。地方自治体によるIT活用は,行政手続きのオンライン化を通した業務改善やデータ活用やDXによる業務の効率化を図り,将来の行政コストの削減に貢献することが期待される。また,地方公会計における統一的な基準に準拠して測定された「ソフトウェア」(無形固定資産)は当該ソフトウェアの利用により将来の費用削減が確実であると認められることが計上の要件とされている。そこで,本稿では,地方自治体におけるIT費用・ソフトウェアと行政コストとのあいだには負の関係がある,との仮説を設定し,実証分析した。その結果,現在及び次期の行政コストに対して,IT費用は統計的に有意ではなく,ソフトウェアは一貫してプラス有意に推定された。これらの結果に基づけば,地方自治体におけるIT費用・資産が行政コストを改善する可能性は小さく,一時的に悪化させている可能性が懸念される。