会計プログレス
Online ISSN : 2435-9947
Print ISSN : 2189-6321
ISSN-L : 2189-6321
2024 巻, 25 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 石川 恵子, 黒木 淳, 佐藤 亨, 山本 清
    2024 年2024 巻25 号 p. 1-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,地方自治体におけるIT費用・資産が行政コストに与える影響について実証的に明らかにすることである。地方自治体によるIT活用は,行政手続きのオンライン化を通した業務改善やデータ活用やDXによる業務の効率化を図り,将来の行政コストの削減に貢献することが期待される。また,地方公会計における統一的な基準に準拠して測定された「ソフトウェア」(無形固定資産)は当該ソフトウェアの利用により将来の費用削減が確実であると認められることが計上の要件とされている。そこで,本稿では,地方自治体におけるIT費用・ソフトウェアと行政コストとのあいだには負の関係がある,との仮説を設定し,実証分析した。その結果,現在及び次期の行政コストに対して,IT費用は統計的に有意ではなく,ソフトウェアは一貫してプラス有意に推定された。これらの結果に基づけば,地方自治体におけるIT費用・資産が行政コストを改善する可能性は小さく,一時的に悪化させている可能性が懸念される。
  • 坂口 順也, 河合 隆治
    2024 年2024 巻25 号 p. 21-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究では固定的な取引関係と管理会計情報の共有との関連性に注目する。具体的には,固定的な取引関係の原因となる資産特殊性が,組織間での業務情報とコスト情報の共有に対して与える影響について検討する。日本企業を対象とした質問票調査を分析した結果,資産特殊性が業務情報の共有を促進する一方でコスト情報の共有を制限することや,業務情報の共有がコスト情報の共有を促進することを明らかにした。
  • 酒井 絢美
    2024 年2024 巻25 号 p. 37-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,株主優待の実施を日本企業の特徴的な行動の一つと捉え,企業の行動特性として広く存在が確認されている「横並び行動」の発現という観点から分析を行った。その結果,前年度に同業種の他の企業が株主優待を行っているほど,企業は株主優待を新たに実施する傾向があることが示された。ただし,前年度の同業種トップ企業の株主優待導入の有無に関しては有意な結果は得られなかった。当該結果は,企業が株主優待を実施するにあたって,同業種トップ企業の追随ではなく同業種の他の企業の動向を確認した上で意思決定を行うという「横並び行動」をとる傾向にある可能性があることを示唆している。
  • 質問票調査による規定要因の分析
    尻無濱 芳崇, 井上 慶太, 藤野 雅史
    2024 年2024 巻25 号 p. 55-72
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究は,日本の認定NPO法人に焦点を当て,非営利組織が受益者に対して果たす説明責任について調査した。調査の結果,受益者を説明責任を果たす相手として認識している認定NPO法人は55.9%と半数以上だった。また,認定NPO法人が受益者に対する説明において重視する内容については業務活動の具体的内容が75.7%で最も多く,重視する説明手段としては成果や状況を説明する文章が68.9%で最も多かった。受益者への説明責任の果たし方を規定する要因として,組織の活動領域,組織の規模,受益者に対する認識を考え,これらの要因が受益者への説明内容や説明手段に影響を与えているかを検証した。分析の結果,活動領域によって受益者に対する説明内容や説明手段の中で重視するものが変わることが判明した。それに加えて,受益者を説明責任を果たす相手として認識している場合には説明内容や説明手段が充実する傾向があることが示された。その一方で,組織の規模が受益者に対する説明責任の果たし方に影響を与えているという証拠は得られなかった。
  • 期間衡平性に関する実証分析
    黒木 淳
    2024 年2024 巻25 号 p. 73-90
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
     地方公共団体は総務省から要請を受け,統一的な基準に基づく財務書類を開示している。しかし,開示された財務書類をどのように活用できるのかはいまだ重要な研究課題である。地方公会計に関する先行研究は,損失報告時において本来必要な税収の増加や歳出の削減ではなく,一時的に基金取崩を用いることで期間衡平性を棄損する可能性を指摘している。本稿は,統一的な基準で開示される純資産変動計算書の「本年度差額」に着目し,本年度差額の損失の大きさと財政調整基金取崩が関連していることを予想する。2016年度から2018年度までの4,115地方公共団体・年度のデータを用いた実証分析の結果,他の要因を所与としてもなお,本年度差額の損失の大きさは財政調整基金取崩と関連していることを発見した。さらに,このような関係は,一時的な歳入の大幅な減少あるいは歳出の大幅な増加に伴わず,選挙実施の年度であるほど強まること,また物件費の増加が要因であることが明らかになった。本稿は,発生主義に基づく本年度差額に注目し,期間衡平性を棄損する可能性のある財政調整基金取崩と関連性を示す証拠を示した点で公会計研究に貢献している。
  • ソーシャルビジネスにおけるソーシャルインパクトの誕生から仕組み化に関する事例研究
    李 燕, 木村 麻子
    2024 年2024 巻25 号 p. 91-112
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究では株式会社ボーダレス・ジャパンの事例に基づいて,同社の管理会計制度としてのソーシャルインパクトの誕生から仕組み化までの制度化のプロセスを明らかにすることを目的とする。具体的には,制度的企業家理論を用いて,同社のソーシャルインパクトの制度化を,制度的企業家とみなされる創業者たちが自らの経験を再生産するための制度構築のプロセスと捉えて分析する。分析の結果,同社のソーシャルインパクトの制度化には,ソーシャルビジネスが内包する社会性と経済性の制度的論理の矛盾(institutional logics contradiction)に埋め込まれた制度的企業家の,省察(reflexivity)に基づく経験の仕組み化として行われたことが明らかになった。さらにそれを組織の規範的ルールとして理論化(theorisation)することは,後進する社会起業家および事業が,ソーシャルビジネスの本質,すなわちソーシャルインパクトの追求を目的とし,経済的利益の追求を手段とする関係を維持する上で重要であった。
feedback
Top