抄録
本研究では株式会社ボーダレス・ジャパンの事例に基づいて,同社の管理会計制度としてのソーシャルインパクトの誕生から仕組み化までの制度化のプロセスを明らかにすることを目的とする。具体的には,制度的企業家理論を用いて,同社のソーシャルインパクトの制度化を,制度的企業家とみなされる創業者たちが自らの経験を再生産するための制度構築のプロセスと捉えて分析する。分析の結果,同社のソーシャルインパクトの制度化には,ソーシャルビジネスが内包する社会性と経済性の制度的論理の矛盾(institutional logics contradiction)に埋め込まれた制度的企業家の,省察(reflexivity)に基づく経験の仕組み化として行われたことが明らかになった。さらにそれを組織の規範的ルールとして理論化(theorisation)することは,後進する社会起業家および事業が,ソーシャルビジネスの本質,すなわちソーシャルインパクトの追求を目的とし,経済的利益の追求を手段とする関係を維持する上で重要であった。