抄録
本稿は,未上場スタートアップ企業の価値評価と財務報告のあり方を,会計研究の知見を用いて検討するものである。スタートアップ企業は高い成長可能性をもつ一方,不確実性が大きく,企業価値は創業者,投資家,従業員,顧客といった人的ネットワークに強く依存する。しかし,現行の財務報告制度は主として上場企業を前提としており,人的情報は注記や説明資料に委ねられ,財務諸表本体で十分に表現されていない。本稿では,労務出資・信用出資や人的資源会計論を手がかりに,人的情報に関する財務報告の方法を整理・考察したうえで,人名を財務諸表上で表示するという「人的勘定アプローチ」を提示する。これは従来の課題の1 つであった価値測定を伴わず,表示の工夫によって人的情報を前面化する試みである。スタートアップ企業の実態に即した財務報告のあり方を考察するとともに,会計研究にも新たな視点や接点を提示する。