生命倫理
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臓器移植によって誰が助けられるべきか…? : 最大のドナー予備軍である若者が、理想とするレシピエントとは
松野 良一
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2000 年 10 巻 1 号 p. 92-99

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抄録

1997年10月に臓器移植法が施行され、日本でも脳死体からの臓器摘出が可能になった。しかし獲得された希少な臓器をどういう基準でレシピエントに分配するかについては、まだ公開の場で十分な検討がなされていない。日本においては心臓、腎臓、肺の場合、医学的条件が同じ場合は、待機期間の長い順で臓器を分配・移植する基準が採用されている。この「先着順」システムは一見平等・公平であるように見えるが、慢性臓器疾患の高年齢層が、若年層よりも早く移植が受けられる可能性もある。さらに肝臓については、疾患の種類と緊急度、血液型適合度を点数化して順番を決めているが、場合によっては飲酒により肝硬変になった患者が、他の要因で肝疾患になった患者よりも先に移植を受けられるという事態が生じる可能性もある。アメリカの臓器分配ネットワーク(UNOS)のデータを分析すると、各臓器の約4割から7割は、11歳から34歳の若年層が提供しており、逆に、臓器を受け取るレシピエントは、50歳から64歳であった。本研究は、臓器提供の最大の予備軍である若者が、自分が脳死になった場合、誰に臓器を移植して欲しいと思っているか、主としてレシピエントの移植前後の飲酒量、病因の無辜(むこ)性、年齢・性別、社会的状況(地位)について調査したものである。結果から、ドナー予備軍の若者は、レシピエント(飲酒者、高齢者、女性より男性、受刑者など)によっては、強い不満を抱くことがわかった。若者の意識を、臓器分配システムに反映させるかどうかは別として、無視すると提供者数が減少する可能性があることは否定できない。

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2000 日本生命倫理学会
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