生命倫理
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医療倫理学ケースの物語論
服部 健司
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2009 年 19 巻 1 号 p. 112-119

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抄録

医療倫理学ケーススタディの成果に影響を与える因子はさまざまあるが、その中のひとつであるケース要因について物語論的観点から、よく用いられる教科書に掲載された3つのケースを比較しつつ、また臨床で用いられる症例報告の叙法を参照しながら検討するのが本稿の課題である。一般科の症例報告はモノローグ主義的、叙述報告的、要約的であり、患者の生きざまが描かれることはない。一方、米国精神医学会の精神疾患診断・統計マニュアルが導入され普及する以前、精神科では、診断過程でことのほか患者の性格や生活史を重視していた。この点で、医療倫理学ケースの範型として適っているように見えなくもない。しかし診断学的体系を土台とした臨床医学の症例報告の叙法を、倫理学的判断の体系が確立しているとは言えない医療倫理学に用いるとすれば、ケーススタディは単なる倫理原則の適用の例示の場でしかなくなる可能性が大きい。患者や家族の人生の価値的問題に正面から向き合うことが求められる医療倫理学ケーススタディにおいては、味わいと多声性、ドラマ性を帯びた文学的叙法で書かれたケースを用いるのがふさわしい。

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2009 日本生命倫理学会
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