生命倫理
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身体とは何か (第 2 回学術大会)
養老 孟司
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1992 年 2 巻 1 号 p. 4-9

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抄録

日本歴史において、身体の重みは、江戸期以前と以後とで明確に異なる。身体性重視という点では、鎌倉時代が絵画、彫刻、思想の点で、もっとも注目される。西欧と比較しても当時の身体表現はより正確であった。こうした中世的な身体の優位は江戸期の到来とともに消失する。身体が消えると言ってよい。これはすなわち自然性の排除である。その意味で、江戸期の成立は、脳化社会の成立と規定される。脳化社会とは、情報・管理を強く指向する社会である。これは自然の排除を特徴とする。現代日本人の身体観は、ほとんど江戸期と同じであり、身体に対して「心」が優位である。これが、日本社会における人間規定を大きく左右している。そこから、日本特殊論、外人問題、臓器移植問題、人工妊娠中絶への態度など、いわゆる日本人特有の考え方が生じていると考えられる。

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1992 日本生命倫理学会
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