最近、生体肝移植の存在を前提に重篤な肝硬変について検査・治療等に当たることが病院に要求される医療水準であるとする判決がなされた。健康人ドナーからの臓器採取を伴う生体移植について、医師倫理規範の観点から検討する。判決は生体肝移植を、実施例や施設が相当数に及び累積生存率も高いことから安全性と有効性が是認されたとする。そして患者へのインフォームド・コンセントの方法や内容こそが大切であるとする。しかしこの判決は、レシピエントの「安全性と有効性」ならびにインフォームド・コンセントの基準を、本来当てはめてはならない健常人のドナーに当てはめてしまったものである。健康の維持は健常人であるドナーの不可侵の権利であるため、そのようなドナーへの手術を正当化できる医学的理由がない。生体移植の是非は、広く医師の倫理規範にかかわることから、移植推進の立場の医師だけでなく、まず市井の医師を含めた医師全体での議論が必須である。