生命倫理
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原著論文
人間の尊厳・福祉・ケア
堂囿 俊彦
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2017 年 27 巻 1 号 p. 55-63

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抄録

 「福祉」 (welfare) の概念は、生命をめぐる問いに対して一定の方向を指し示す、生命倫理学の基礎概念で ある。しかし福祉概念に関しては、①誰の福祉を保障するべきなのか、②どのようにすれば保障したことになるのか、いずれの問いについても充分に論じられてきたとは言えない。そこで本論文では、これら二つの問いを、福祉の根底にある「人間の尊厳」との関わりにもとづき検討した。具体的にとりあげたのは、マーサ・ヌスバウムと、その批判者であるエヴァ・フェダー・キテイの尊厳論である。考察の結果われわれは、二人の尊厳論を相補的にとらえる必要があるという結論に至った。尊厳を内在的価値と見なす点において、ヌスバウムの立場は支持される。しかし尊厳に関しては、ケイパビリティだけで捉えられるのではなく、ケアという関わりを通じて、個別的に判断される必要がある。その意味で、ケアと尊厳のつながりを重視するキテイの立場も、重要な洞察を含んでいる。

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2017 日本生命倫理学会
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