生命倫理
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報告論文
イランの 「治療的人工妊娠中絶法」 をめぐる議論
細谷 幸子
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2017 年 27 巻 1 号 p. 72-78

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抄録

 本稿では、シーア派12エマーム派を国教とするイランで「治療的人工妊娠中絶法」(2005年)が成立した背景とともに、この法の成立過程で重視された論点を整理し、成立後の変化を概観することで、中東イスラーム諸国の生命倫理をめぐる議論の一つを紹介する。それまで母親の生命を救う以外の人工妊娠中絶に厳罰を科していたイランで、この法の成立は大きな制度的転換点となった。その背景には、不法の人工妊娠中絶による女性の健康被害が深刻な状況にあった。医学的理由による人工妊娠中絶という側面を前面に出し、母の苦痛は回避されるべきとするイスラーム法の概念で支持することで、障害や疾病をもつ胎児の選択的人工妊娠中絶が正当化されたが、障害や疾病をもって生きる権利に十分配慮した議論は、十分におこなわれなかった。法制定後、不法の人工妊娠中絶数は減少していないとされる一方で、胎児の異常を理由とした人工妊娠中絶は許容範囲が拡大され、増加している。

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2017 日本生命倫理学会
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