2018 年 28 巻 1 号 p. 107-115
近年の遺伝医学領域の飛躍的な発展の結果、研究・臨床の両分野で、ゲノム網羅的な解析の利用が広まりつつあるが、それとともに偶発的所見( IF) や二次的所見( SF) の取り扱いをめぐる新たな問題ももたらされた。
これまで、この問題は解析を受けた本人やその血縁者への返却という視点でのみ論じられ、現在のところ、解析によって判明した遺伝性疾患が第三者の安全に関わりうるものであった場合についての議論はない。「第三者の安全に関わりうる」というのは、その疾患が、一見健康な者に、突然の失神や死を引き起こす可能性がある場合、運転中に発症すれば、本人だけでなく、他者の生命・身体まで危険にさらしかねないが、そのような事態を想定している。
そこで本稿では、第三者の安全に関わりうる偶発的所見や二次的所見が見つかった場合の取り扱いを新たな問題として提起し、対応のあり方を検討する。
なお、この問題は臨床・研究の双方で起こりうるが、本稿では診療契約により医師―患者関係が成立するクリニカルシークエンスに限定して論じる。