生命倫理
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報告論文
臨床倫理学における解釈学的アプローチ
服部 健司
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2018 年 28 巻 1 号 p. 116-125

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抄録

 臨床現場の個々のケースの倫理問題を個別の諸事情に即して暫定的かつ蓋然的に解消しようとする臨床倫理学では、さまざまな方法が案出されてきた。その中のひとつ、本邦ではほとんど注意を向けられてこなかった解釈学的アプローチを概括し、その他の方法と比べ、その特質と課題を明らかにする。解釈学的アプローチはケースを単なる倫理問題の例としてではなく物語としてとらえなければならないこと、その倫理問題を同定し解消するにはケースのより深い理解に基づかなければならないことを他の方法より重くみる。解釈学的アプローチの源流のひとつは、1990年前後、ナイメーヘン大学(現 ・ラドバウド大学) 哲学部にある。その方法は、ケースの直感的把握にはじまり、物語論的分析、倫理学的概念との関連づけを経て、当初の直感的把握を修正するというものである。筆者はそれに近い立場をとりつつも、倫理学的概念を参照する過程を不要と考え、文学的想像力と発見的発問能力に支えられた別のかたちの解釈学的アプローチを構築し、教育してきた。 このアプローチは、事前に固定した問いを設定したりせず、ケースに応じて流れを大きく変えるため、定式化することが難しいが、可能なかぎりで定式化を試みた。いずれの方式をとるにせよ解釈学的アプローチを行うには、ある水準以上の文学的想像力が必要となる。それを医療者に求めるのは過剰な要求であり、想像力をさほど必要としない従来の方法がよいという意見もあろう。しかし、医療者であれ倫理コンサルタントであれ、文学的想像力の乏しい者が臨床倫理の問題に向き合おうとすれば、どのような方法を選択しようとも、それ自体があやうい営みだと言われなければならない。

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2018 日本生命倫理学会
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