2021 年 31 巻 1 号 p. 12-19
2020年に発生したCOVID-19のパンデミックによって、世界各地で医療資源(特に人工呼吸器に象徴される二次救命措置の可能なICU病床)が逼迫し、その配分の必要性がICUトリアージとして論じられた。本稿では、①高齢者の扱い、②医療資源配分時の優先順位、③医療資源再配分の問題の三つを中心に、パンデミック時のICUトリアージについての生命倫理学的な議論を概観した。そして、①年齢を治療の除外基準とすることは高齢者差別になること、②優先順位については、不要とする説、医学的必要性による順位とする説、治療的有効性による順位とする説があったが、トリアージの有用性に関するエビデンスが不十分であること、③功利主義的なICUトリアージで医療資源を再配分することは刑法上の問題になり得ることを指摘した。また、生政治の観点から、パンデミックのような例外状況で功利主義的なトリアージが論じられる意味を分析した。