2021 年 31 巻 1 号 p. 20-28
従来、革新的な生殖補助医療/技術(ART)は、通常の医療技術開発のプロセスと異なり、臨床研究はおろ か、それ以前の基礎研究や動物実験での十全な検証を経ないままに、「診療」の名の下で一足飛びに人で臨床応用され、通常医療に導入されてきたという特殊性を有する。またそのため、ARTをめぐる研究倫理上の問題は、従来の生命倫理上の議論から抜け落ちてきた。しかし近年、革新的な現代のARTの多くが臨床研究の段階を経る方向へとシフトしつつある中で、被験者保護を主題目とする研究倫理から見たARTの臨床応用をめぐる問題について検討することが必要となっている。本論では、ART臨床研究の倫理的な特殊性について検討し、その特殊性ゆえに、ベルモント・レポートに基づく既存の研究倫理の原理的枠組みでは捉え切ることのできない困難な問題をART臨床研究が抱えていることを論じる。