トランスジェンダーの人びとが出生時に登録された公的書類上の性別を書き換えられるようにする法律を一般に性別承認法と呼ぶが、世界の性別承認法には不妊化を義務付けるものが多かった。近年この不妊化要件は撤廃が進んでいるが、日本の性同一性障害特例法には残存している。本稿では、トランスジェンダーの性別承認法における不妊化要件の妥当性を倫理的に吟味する。本稿はこの要件が(1)不妊状態を求めることに加えて、(2)性別承認を求める人々に一律に不妊化手術を求め、結果として手術を望まない人々にも不妊化手術を強いていることを区別し、これまで不妊化要件の正当化のために提示されてきた5つの理由をそれぞれ吟味する。本稿の吟味を経ることで、これら全てが妥当性を欠くこと、それゆえ性別承認法の不妊化要件が倫理的に大きな問題を含むことが示される。