妥当な脳死判定基準をどのように決めればよいかについての生命倫理の議論は、ある前提に基づいて行なわれてきた。それは、脳幹に深刻な障害のある人間の、上位脳の機能を蘇生させたり維持しておくような決定的な医療技術は、存在しないという前提である。しかし将来は、「人工頭蓋」「人工血液ポンプ」「脳血管の人工血管化」などの人工臓器技術を、脳外科手術に導入することができるようになるだろう。これらのテクニックを使うことで、脳の一部は死んでいるのに、上位脳の一部は生き続けている状態を作り出せるかもしれない。このようなケースでは、現行の脳死判定基準は再考を余儀なくされるはずである。