2019 年 55 巻 3 号 p. 107-116
飼育下の大型ネコ科動物で問題とされている常同歩行の発現には環境エンリッチメント(以下エンリッチメント)の有無や来園者の影響など複数の要因が絡んでいると考えられるが、複合的な検討は行われていない。そこで本研究ではエンリッチメントの有効性及び来園者数と気温がトラの行動に与える影響について検証した。京都市動物園で飼育されているアムールトラ3頭を対象とし、 3分毎の瞬間サンプリングを用いて行動を記録した。放飼場内に設置するエンリッチメントの種類が多いと、トラの常同歩行頻度は有意に減少し(P < 0.05)、エンリッチメントの利用頻度が有意に増加した(P < 0.01)。複数のエンリッチメントの設置はトラの常同歩行の抑制に効果的であり、探索行動や捕食行動等多様な行動を引き出す上で有用であることが示唆された。また来園者の存在によって、トラの休息頻度が増加、エンリッチメントの利用頻度が低下する可能性があると考えられた。