2021 年 29 巻 2 号 p. 53-64
本研究では「カサンドラ症候群」について,ある女性クライエントに対する面接過程を題材として論じた。近年,わが国で注目されるようになった「カサンドラ症候群」概念であるが,その心理支援についてはこれまで十分な検討がなされてこなかった。それに対し,今回セラピストはナラティヴ・セラピーを用いた臨床実践を試みた。女性クライエントは共感性に乏しく,些細なことに激怒する夫との難しい関係に悩んでいた。セラピストはそこで,「外在化する会話法」を活かしながら,彼女が「ユニークな結果」を通じた新たな物語を見出せるよう支援した。その結果,夫の「頼れる存在」としての価値に焦点が当たり,家族の物語は変化し,その関係は改善へと向かった。