日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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症例報告
エネルギーを本格的に導入した「顔と口腔の医学」の樹立
Part Ⅰ(後編)人工歯根療法時代の到来─人工歯根療法の実際
西原 克成手嶋 通雄
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2012 年 32 巻 1-2 号 p. 152-168

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抄録

人間の生命を扱う医学で最も重要な事項は,ミトコンドリアのエネルギー代謝と環境エネルギーと動物自身の動きの生体力学エネルギーであるが,このエネルギーの概念が今日完璧に見過ごされている.筆者は医学と生命科学にこれらの考えを導入してエネルギーに立脚した革新的な「顔と口腔の医学」をまとめて出版した.この新しい医学の考えに立って筆者は,骨癒着型のインプラントに代わって新型の歯根膜を持つ釘植型人工歯根を開発した.人工歯根の基礎的研究についてはPart 1前編に報告した.本稿では釘植型人工歯根と歯科インプラントとのコンセプトの違いについて述べる.人工歯根療法を完成させるのには20 年を要した.本療法は,一般の疾病の外科手術方法とは異なり,より良い咬合状態を求めるための咀嚼器官の手術療法である.顔と口腔とはヒトの生命維持および社会生活上最も重要な器官である.この観点から実地臨床応用のための人工歯根療法を樹立することが肝要である.実際の人工歯根手術療法では,安全で容易かつ確実な手法の開発が最も肝要である.この目的にかなった人工歯根の形態を,哺乳動物のヒトの歯の器官特性つまり咀嚼時の質量のある物質の切断・摩砕機能の負担に耐えるよう太くて短いチタン製の波状円筒形の人工歯根と,歯根に相応する切削器具を開発した.手術中にほとんど出血のみられないきわめて安全で容易かつ確実な人工歯根手術法が開発された.術後15 分して人工歯根表面と歯肉および歯槽手術創の歯周間葉組織とは癒合する.したがって手術後30 分経過すれば食事は可能となる.歯科と整形外科のインプラントデバイスは,今や盛んであるが,剛対剛つまり骨とチタンインプラントの直接癒着システムである.この結合様式は反復加重下で必ず破断するために,今日では剛体力学的見地から科学的に否定されている.したがって現代社会では,医学を除いて剛体結合(骨性癒着)様式は工学的にも,機械学からも,産業科学からも建築学的にも顧みられなくなっている.現代医学では,エネルギーのみならず生体力学の概念の完全欠落によりインプラントの骨性癒着システムの誤ったコンセプトに対し,誰一人として異を唱える者がいない.整形外科と歯科のインプラントデバイスにエネルギーの概念のみならず線維組織による関節結合システムのコンセプトをただちに導入しなければならない.これにより旧態然たる医学界がようやくにして現代科学の技術水準に到達することができるのである.

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© 2012 特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
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