抄録
目的:総義歯における床外形線の設定は,義歯の維持,安定を左右するきわめて重要な因子であり,とくに,下顎総義歯ではその設定位置に術者間で相違があるのが現状である.
そこで今回,下顎総義歯における床外形線設定位置の維持に及ぼす影響を知る目的で,牽引装置を用いた実験を行った.一連の研究の第1報として,義歯床によるレトロモラーパッド部被覆量の違いにおける維持力の変化について報告する.
方法:実験用仮床の後縁部を下顎後方円蓋からレトロモラーパッドの後縁,2/3,中央,前縁へと段階的に削合し被覆量を減少させる過程において,口腔内に装着した実験用仮床をデジタルフォースゲージにて牽引し,義歯床・離脱牽引力測定実験を実施した.そして,得られた測定値から後縁部床外形線設定位置が維持に及ぼす影響について比較検討を行った.また,同時にレトロモラーパッド部の寸法測定を行い,床外形線設定位置に関して数値化を試みた.
結果:後縁部床外形線の位置が後方円蓋から前方に移動するのに従い,測定値の低下が認められた.義歯床縁を下顎後方円蓋に設定した場合の測定値が最も高く,レトロモラーパッド前縁に設定した場合と比較してp<0.01で有意差が認められた.
結論:レトロモラーパッド部において安定した辺縁封鎖を得るためには,義歯床後縁は,最低でもレトロモラーパッドを2/3被覆する位置(レトロモラーパッド前縁より約7mm後方の位置)から後方に設定するべきであり,可能な限り下顎後方円蓋(レトロモラーパッド前縁から約15mm 後方の位置)まで延長するべきであることが示唆された.