無歯顎患者の下顎総義歯製作において,義歯床縁全周囲を口腔粘膜で封鎖することにより義歯内面に陰圧を得る下顎吸着義歯は,開口時に義歯が浮き上がることがなくなるため,臨床的に極めて良好な結果を得ている.しかし,すべての症例において吸着が達成できるわけではない.そこで,下顎総義歯の吸着を阻害する要因を評価,検討するため,また,吸着理論に基づき製作された義歯がどの程度の確率で吸着が達成できたかを調査するため,吸着理論を熟知した歯科医師,歯科技工士に対して質問用紙法による調査を行った.顎堤吸収量,舌下ヒダ部におけるスポンジ状組織量,後顎舌骨筋窩部に義歯床を延長できる空隙量,レトロモーラーパッドの形態,舌後退(舌後退量),そして咬合の安定は,それぞれの条件が不良になると明らかな有意差を持って吸着の確率が減少した.一方,下顎骨隆起の有無による吸着率の差に関しては有意差が認められなかった.今回の調査における下顎吸着の確率は 86.9%であった.結論:下顎総義歯の吸着を高い確率で得るためには,6 項目のリスクファクターに注意を払い診査 診断を行うことが重要であることが示された.